憧れの高雄ーガオシュンー南国港町

ただ、其処に行きたかった。痛切に行きたかった。「あのティダに撃たれて死んでしまえば良かった」
何処かの小説に、ヒロインが太陽を見ながら主人公に抱かれて…だっただろうか?

それくらい、恋焦がれて、思い詰めて、お金まで貯めて行きついた台湾。
想い人の故郷ー単にそれだけの理由で、初海外旅行を台湾・高雄に決めたのです。

未だ台湾に高鐵が走る前の事。高雄には台北乗り継ぎがメインルートでした。
一応、台湾語は勉強したものの、付け焼刃程度で何も分からないのです。
桃園の空港内でうろうろして、やっとトランジットの飛行機に乗りました。

1時間程度のフライトに軽食が出ます。サンドウィッチと、ゼリー?の容器。
何故にゼリー?と勢いよく開けたら、そればオレンジジュースでした。これが私の初カルチャーショックです。

高雄に到着したのはもう現地時間10時くらい。真冬の日本からやってきて、熱気と湿気混じりの空気に又カルチャーショック。
小さい飛行機に乗せられ、タラップで降りて空港ビルまで歩く…これもジャブのうちでしょう。そして、スパイシーな香り。
初海外ということで、パックツアーで行きました。当然、一人旅です。

送迎車から見る高雄の町並み…ガラスが零れたような、タイセツなモノを拾ったようです。
その合間に、見慣れない派手な衣装のお姉さまを散見しました。「檳榔西施」という、一種のドラッグ売りのお姐さまです。
似ているようで、違う世界まで遠くまで来てしまったと、我ながら武勇伝をしたものです。

パックツアーでの参上故に、身不相応なホテルに案内されました。其処しか泊まれなかったとはいえ、私はかなり緊張していました。
ー慣れたたら、相応なホテルに泊まろう。
お陰で、朝食のブッフェは相応の食事を頂きました。

現地で、ツアーとは別に知り合いを立てて市内観光に行きました。知り合いは(知り合いに限らず現地人は)日本人と大差無いです。
右側通行と、看板の文字や彩色さえ変えれば、日本そのまま。
一瞬、此処は何処なんだろう?という錯覚に陥ります。

ふと、思いました。みんな、日本に真似ろとしているけれど真似なくても良い、何かが此処にある。だから無理しなくていい。
現地のごはんが食べたい、というリクエストに知り合いは応じてくれました。
見たことも無いおかずの数々。脂っこいけれど、素を出している味です。

ーこんなに美味しいのになあー

夜になると昨日と打って変わって冷えてきました。
暖かいものを、と知り合いは屋台に寄りました。何事かと、屋台主と会話しています。
持ってきたのは、焼き肉まん。後日調べたら「胡椒餅」という焼き中華パンでした。
ー早く食べてだって、冷めると不味いからー

エスニックの(多分八角であろう)この匂いは空港で嗅いだ匂い!
その匂いが、今、自分が遠くへ来てしまった事を実感させられるのです。
ついでに、何処からかココアを仕入れ、川べりで乾杯をしました。気を遣ってくれたのでしょう。
愛の川だから、愛河なんだよ…と。

なのに、大切な思い出なのに、半分は忘却の彼方へ追いやられています。
案内人のお兄さんは、あの後何度か会ったものの、行方知れずです。
それをつなげてくれた想い人も、今何処で何をしているのでしょう…ね。